JAJA679B august   2018  – may 2021 ISO1640 , ISO1640-Q1 , ISO1641 , ISO7731 , ISO7742 , ISOW7740 , ISOW7741 , ISOW7742 , ISOW7743 , ISOW7744 , ISOW7821 , ISOW7840 , ISOW7841 , ISOW7843 , ISOW7844 , SN6501 , SN6501-Q1 , SN6505A , SN6505B

 

  1. 1TI Tech Note

TI Tech Note

I2C (Inter-Integrated Circuit) バス通信は、短距離での通信に適した 2 線式の半二重通信方式で、シンプルであることから、さまざまなアプリケーションで広く採用されています。I2C バスを使用して電位の異なる 2 つのドメイン間で通信を行うシステムや、高電圧が存在するシステムでは、ガルバニック絶縁を使用することにより、回路やオペレータを保護し、信号通信に干渉するノイズを発生させる可能性のあるグランド・ループを切断することができます。

デジタル・アイソレータは本質的に単方向であるため、I2C バスの双方向通信を実装する際に、システム設計者は多くの課題に直面します。この資料では、I2C バスを絶縁するさまざまな方法と、これらのソリューションに絶縁型の電源を供給する方法について説明します。

信号絶縁

I2C バスの信号絶縁は、2 つの方法で実現できます。最初の方法では、デジタル・アイソレータと外付け回路を使用して、双方向データ・パスを 2 つの単方向チャネルに分離します。双方向データを単方向信号に分離した後、デジタル・アイソレータで各チャネルの入力信号を変調し、信号を絶縁バリアを通過させてから、出力で信号を復調します。『デジタル・アイソレータを使用した強化絶縁型 I2C バス・インターフェイスの設計』アプリケーション・ノートでは、双方向 I2C 信号を単方向信号に分離してデジタル・アイソレータと調和させるための、設計上の考慮事項と手法について詳細に説明しています。

GUID-02B05F08-576B-445E-84B1-444C95BA2D79-low.gif図 1 デジタル・アイソレータを使用した絶縁型 I2C のディスクリート実装

図 1 に、双方向データと単方向クロックを使用するアプリケーションで、ISO6731ISO7731 などの 3 チャネル・デジタル・アイソレータを使用した方法の実装を示します。双方向データとクロック信号を必要とするマルチマスタ・システムでは、アプリケーション・ノートで説明されているのと同じ方法を ISO6742ISO7742 などの 4 チャネル・デジタル・アイソレータで使用できます。

I2C バスを絶縁する 2 番目の方法は、ISO164x ファミリのデバイスなどの統合ソリューションを使用することです。これらの統合ソリューションは、内部回路とデジタル・アイソレータを組み合わせて使用し、同じ絶縁型 I2C バッファ機能を実現します。ISO1640 は双方向データとクロック信号を使用するマルチマスタ・システム用に設計されており、ISO1641 は双方向データと単方向クロックを使用するシステム用に設計されています。双方向データと単方向クロックを使用するアプリケーションでクロック・ストレッチング機能が必要な場合は、ISO1640 を使用してクロック・ストレッチングを実現することをお勧めします。

GUID-D22824E1-68EE-462F-858E-546192168FF0-low.gif図 2 双方向 SDA 信号を単方向絶縁チャネルに分離する ISO164x 方式

図 2 の機能図に、I2C バスからの双方向シリアル・データ・ライン (SDA) 信号を内部で 2 つの単方向信号に分離し、デジタル・アイソレータのチャネルを使用して絶縁する方法を示します。絶縁型 I2C デバイスは、サイド 1 の低容量 I2C ノードと、サイド 2 の最大 400pF の重負荷 I2C バスとインターフェイスがとれるように設計されています。内部単方向チャネルの配置と接続によっては、ラッチアップが発生しやすい閉信号ループが形成されます。このラッチアップ状態は、ダイオードの電圧降下により出力 Low レベルを約 0.65V 上昇させた出力バッファ (B) と、ヒステリシスを定義したコンパレータで構成される入力バッファ (C) を実装することにより防止できます。その結果、コンパレータの入力の上限スレッショルドと下限スレッショルドにより、SDA1 からの Low 電位と出力バッファ B からの Low 電位が区別されます。

I2C システムの信号を絶縁する各ソリューションにはトレードオフがあります。デジタル・アイソレータを使用したディスクリート・ソリューションでは、複数のパッケージ・オプションで提供される絶縁定格が異なる ISO6731ISO6742ISO7731ISO7742 からパーツを選択できる柔軟性がありますが、このソリューションには外付け回路が必要であるため基板面積が大きくなるという欠点もあります。ISO1640 または ISO1641 を使用した統合ソリューションは、基板面積を小さくでき、ディスクリート・ソリューションよりも設計の労力が少なくて済みますが、パッケージと絶縁定格のオプションは限定されます。

電源の絶縁

I2C 信号を絶縁する方法にかかわらず、デジタル・アイソレータまたは絶縁型 I2C バッファの 2 次側に絶縁型電源を供給する必要があります。絶縁型電源を供給する最初のソリューションは、図 3 と類似の回路を使用することです。この回路は、SN6501 トランス・ドライバを使用して、プッシュプル構成でトランスを駆動します。このソリューションの利点は、80% を上回る効率を実現し、設計上の具体的な検討事項に合わせて最適なトランスと LDO を選択できることです。SN6501 は最大 1.5W の電力供給が可能で、追加のデバイスに絶縁電源が必要な場合は、最大 5W の SN6505 に置き換えることができます。

GUID-74C72A4B-34C9-4289-9CB0-41F9D064DBBF-low.gif図 3 ISO1641 を使用して信号と電力を絶縁する I2C ソリューション

I2C システムで絶縁型電源を供給する 2 番目のソリューションは、ディスクリート・アプローチのデジタル・アイソレータを ISOW7741 を使用した信号絶縁ソリューションに置き換える方法です。ISOW7741 デバイスは、16 ピン SOIC パッケージで提供される信号と電源の絶縁機能が統合されたデジタル・アイソレータです。このデバイスの利点は、トランス、トランス・ドライバ、LDO が統合されているため、基板面積を大幅に削減できることです。ソリューション・サイズが小さいことにより効率が低下するというトレードオフがあり、チップに内蔵されているトランスの効率代表値は約 45% で、最大 500mW の絶縁型電源を供給できます。統合電源ソリューションを使用すると、トランスのサイズが小さくなるため、スイッチング周波数が高くなり、ディスクリート・ソリューションよりもエミッションが増加します。図 4 に、双方向データと単方向クロックを使用するシステムへの ISOW7741 の実装を示します。双方向クロックが必要な場合は、SDA 信号を分離するのに使用したのと同じ手法をクロック信号に適用できます。

GUID-16016493-581B-45BA-9FEB-8ED7D582D861-low.gif図 4 ISOW7741 を使用した信号と電力を絶縁する I2C ソリューション

まとめ

I2C システムの信号と電力を絶縁する方法は多数あり、適切な選択肢はアプリケーション要件によって異なります。ISO164x ファミリのような絶縁型 I2C バッファは、SDA 信号と SCL 信号を絶縁するのに必要なすべての外付け回路を内蔵しているため設計しやすいだけでなく、ラッチアップを防止し、I2C 規格に準拠しています。さまざまなパッケージと絶縁定格を利用できるフレキシビリティがあるほうが有利である場合もあります。ISO77xx シリーズのデジタル・アイソレータを使用したディスクリート・ソリューションは、このフレキシビリティを実現すると同時に、適切に設計すれば、統合ソリューションと同じ絶縁型 I2C 機能を実現できます。

絶縁型電源では、主なトレードオフは基板面積と効率です。SN6501 ソリューションは、絶縁型電源を生成するためのコンパクトで低ノイズ、高効率のソリューションを提供します。基板面積のさらなる削減が必要なアプリケーションの場合は、ISOW7741 ソリューションで設計の簡素化が実現でき基板面積を最初のソリューションよりも削減できます。システム設計者は、絶縁型 I2C システムで信号と電源を絶縁する各ソリューションのトレードオフを検討し、特定のアプリケーションに最適なソリューションを決定する必要があります。